fe7d99e7

日本人との結婚を期に帰化を検討されるケースがあります。

この場合、たいてい話題に上るのが「帰化と結婚はどちらを先にするのがよいか」という問題です。そして一定程度、こういう観測をお持ちの方がいらっしゃるようです。すなわち、

『先に日本人と結婚しておいたほうが、帰化は有利になる』

こういう観測が持ち上がる背景として、ひとつには簡易帰化の制度が考えられます。つまり、国籍法第7条において、申請者が日本人の配偶者である場合に帰化の条件が一部緩和されているという話が、尾ひれを付けてひとり歩きしているというものです。しかし、簡易帰化のページで述べておりますとおり、日本人の配偶者である場合に緩和されるのは、あくまで住所条件(「引き続き5年以上日本に住所を…」を「3年以上」に緩和)と能力条件(「20歳以上…」を免除)だけです。これがどの程度有利に見えるかは人それぞれですが、実際に帰化を検討している在日、とりわけ特別永住者で、この規定に該当しその恩恵に預かれる人は多くはないでしょう。なお、誤解のないようにいっておきますと、これはあくまで「申請要件」が緩和されるだけであって「審査基準」が緩和されるわけではありません。ヘンな例えですが何かしらの試験になぞらえるなら、「一定の場合に受験料の割り引きを受けられる制度があるが、だからといって試験問題が易しくなるわけではない」というのに似ています。かえってわかりにくいでしょうか…。

いまひとつは、「婚姻によって日本との関わりがより濃密になったことは、帰化の許否判断においても斟酌されるだろう」という根拠のない期待です。しかし帰化の条件はあくまで国籍法第5条に規定された6項目です。このうち日本人との婚姻によって住所条件と能力条件が緩和ないし免除されたとしても、いちばん重要な素行条件と生計条件、さらに重国籍防止の条件、不法団体条件はそのまま残っています。いくら法務大臣に広範な裁量が認められているとはいえ、この条件を無視して恣意的に帰化行政をなすことまではできません。

このように考えると、日本人との結婚が帰化を有利にするという説には、あまり信ぴょう性がなさそうです。もちろん、結婚前と結婚後で、「生計を一にする配偶者その他の親族」の範囲がかわってきますので、人によっては生計条件の立証において有利に働くケースはあるかもしれません。しかし、逆のケースも有り得るわけですので、これは本稿とはまた別の話です。

それでは、有利不利の問題を一旦おいて、帰化と結婚の先後はどのような手続き上の違いを生じさせるでしょうか。

まず、帰化の後にする結婚は日本人同士の結婚ですが、帰化の前にする結婚は国際結婚になります。国際結婚の手続きについてここで触れることはしませんが、日本国内における手続きだけで済まず、本国との事前事後のやり取りまでも必要になるということは、その分手間が増えるということになります。また、夫婦に子どもが生まれるとその子は二重国籍になりますが、これはまた別のページで触れることにします。

次に帰化の手続きですが、上で述べたとおり、申請時点において申請者と「生計を一にする配偶者その他の親族」の範囲がかわることに伴い、必要書類に違いが生じます。多くの場合結婚前は、両親および同居の兄弟姉妹と生計を同じくしているでしょうから、年収や先月の給与、預貯金残高、借金の額と目的、株・車・貴金属等の資産、納税状況等については、両親や同居の兄弟姉妹にすべて開示をお願いし、申請書類の作成に協力してもらわなければなりません。いっぽう結婚後は、配偶者や子どもに対してこれらの詳細を明らかにしてもらうことになります。ここで大切なのは、結婚の前後いずれの場合でも、当局に対して開示するのは、申請者本人に関する事情だけで済まないという点です。本人と生計を一にする者を、言わば「巻き込まざるを得ない」以上、個々の家族事情や環境によって、どちらがより協力的か、あるいはまた非協力的かといった差が生じるのは致し方ありません。結婚前の帰化は親兄弟姉妹を巻き込み、結婚後の帰化は配偶者や子どもを巻き込むということです。

もっとも、このような心配をされている方の場合、実はすでに結婚や出産の予定が決まっており、すでに選択の余地がない場合も多いようです。そしていずれの場合であれ、各々の置かれた環境によって申請書類の作成にかかる手間ひまの違いを生じることはあっても、帰化行政そのものはあくまで法に従い公正に行われるものと信じて差し支えないでしょう。

他方、完全にどちらを先にするか自由に選べる環境にある方の場合には、有利不利の問題はさておき、新しく家族となる婚姻の相手方への配慮や諸々の手間の軽減という観点からは、結婚前に帰化しておいたほうが親御様も含め気が楽なケースが多いと思います。つまり冒頭で述べたよくある観測とは逆の結論になるということです。


4ステップ|帰化までの道のり(PDF:220KB)

お問い合わせフォームはこちら

関連記事一覧