在日韓国・朝鮮人の方々、特に三世・四世またはそれ以降の方々にとって、帰化は単に日常の利便のための事務手続きにすぎないはずです。しかし、いざ父母や祖父母の戸籍、自身の外国人登録原票などの古い記録を目の当たりにすると、言葉にできない「重み」や「沈黙」が生じることがあります。年月を超えて積み上げられた書類の束を通じて、自身や先祖の歴史と強制的に向き合わされた瞬間に流れる、独特の空気感の正体は一体何でしょうか。
それは、在日の方々にとっての帰化が、単なる過去の個人情報の整理、確認ではなく、無意識に蓋をしていた記憶の地層を掘り起こす作業だからなのかもしれません。今日帰化を考える現役世代の多くは、日本で生まれ育って日本人と変わらない生活を送り、日本語で会話し思考する人々です。しかし、古い戸籍に書き継がれた日本語とハングルの手書き文字(*1)、定規で抹消された本名と日本名(*2)、外国人登録原票に並べられた若き日の顔写真、墨で塗りつぶされた指紋押捺(*3)の履歴、そんな翻弄された二十世紀の歴史の断片が、自身の肉体にも刻み込まれている様を視覚的に突き付けられたとき、彼らは否応なしに「自分が何者であるか」を再定義せざるを得なくなります。
ある申請者は、淡々と作業を進める中で不意に筆が止まり、「私は私自身を捨てようとしているのだろうか」と漏らしました。このとき流れる空気は、事務的な確認ではなく、ある種の儀式に近い重みを持っています。私たち行政書士は、その一瞬のためらいと揺らぎを不合理なものとして切り捨てるのではなく、彼らが日本人として生を全うすると決めた覚悟の裏側にある切実な喪失と再生のプロセスとして、静かに、しかし冷徹なまでの正確さをもって支える必要があるのだと感じています。
*1 植民地政策によって朝鮮にもたらされた日本式の戸籍は、植民地政策の終了によって日本語表記からハングル表記に変わり、2008年に制度そのものが廃止された。
*2 1940年創氏改名によって日本式に改められた朝鮮人の名前は、戦後従来の姓名に復旧された。
*3 指紋押捺制度は、反対運動の高まりを受けて1993年に廃止された。
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